理容師・美容師の賃金徹底研究
(メールマガジン週刊「スタイリスト情報」執筆原稿)



 1.理容師賃金むかしばなし

   最近では、理容室を「散髪屋」と呼ぶことが少なくなり、ヘアーサロンやカットサロン・理容室と呼ばれています。
  昭和初期から30年(1955年)ころの散髪屋さんで働く「職人さん」の賃金の決め方についてお話しましょう。
   「職人さん」の賃金は、生産性に比例して、職人が毎日10人の頭を刈ることを想定して決められていました。当時は、
  年中無休に近い仕事をしていたので、賃金の算式は、次のようになりました。

                   (散髪代金×10人×20日)÷2=職人賃金

   散髪代金は、当時の公衆浴場の銭湯代金が影響していました。また、銭湯の代金は、当時の「お米1斗分価格」を基
  準にして決められていたので、米の価格も影響していたと言えます。散髪代金・銭湯代金・米の価格は、次のような形
  になります。

                  散髪代金=お米1斗分価格=20日分銭湯代金

   お米1斗分価格については、平成7年に廃止された食管制度にある「標準小売価格米」の価格で、米1斗分は、現在
  でいう14Kgになります。農林水産省が発表する国内産米麦関連指標によると、ブレンド米平均小売価格は、10Kgで\3,645
  であるため、14Kg換算で\5,103 になります。
   これを20日分銭湯代金としますと、\5,103÷20日=\255.15 で、現在東京都の入浴料金(大人\430)や大阪府の入浴料金
  (大人\360)は、少し高い料金と言えます。
   散髪代金については、10年近く大きな変化(\3,500〜\5,500)がないため、この理論が成り立ちます。これによって「職
  人さん」の賃金を計算できますが、実働日数を20日間として、\5,103×10人×20日=\1,002,600の売上を経営者と折半す
  るのがこの頃の賃金計算でした。つまり、\501,300相当の賃金を取っていたことになります。しかし、この頃は、年中無
  休に近い仕事をしていたので、1人当たりの売上は、\5,103×10人×30日=\1,530,900であったため、、経営者の取り分
  は、\1,530,900−\501,300=\1,029,600つまり、売上の3分の2は、経営者の懐に収まっていたことになります。散髪屋
  の経営者は、従業員を入れれば入れるほど儲かる仕事と言えた時代でした。
   現在の散髪料金は、独占禁止法の関係で統制料金を決めることが出来ないはずですが、一応の取り決め価格は、各地で
  存在します。平均的には、\3,800。主要都市では、\4,200前後となっています。これを20日勤務の上記算式に当てはめる
  と、\4,200×10人×20日÷2=\420,000 が現在の職人賃金になります。しかし、現実は1日10人の仕事をする理容室は少
  なく、本誌経営分析レーダーチャート指数の処理客数(3.58)を当てはめると、\4,200×3.58人×20日÷2=\150,360 にな
  ります。
   この点が理容業の問題点で、熟練従業員が独立することもなく勤務する現状から、生産性以上の賃金を払うことができ
  ない理容室は、縮小するか代替わりするようになります。
   賃金システムも変化の兆しが見られますが、熟練従業員の賃金は、今も昔も大きな違いはありません。

 2.おとこの職場・おんなの職場、それぞれの賃金相場は?

   理容室で勤務する技術者は、男性客相手であるため、男性技術者が仕事します。美容室で勤務する技術者は、女性客相
  手であるため、女性技術者が仕事します。
   この姿は、数十年前のことですが、昔、「おんな」が化粧する際は、人にはその姿を見せなかったものです。今や、電
  車に乗っても人前で平気に化粧する「おんな」がいます。今の美容室インテリアを見ても、極力店内が見える設計になっ
  ていて、技術客数が多く存在することをアピールし、表を歩く顧客を誘導します。美容室で勤務する技術者も男性美容師
  の数が目立ちますが、男と女の違いで賃金が異なるのも理美容業界の「格差」でした。
   理容室で勤務する技術者が男性技術者であった時代では、前項で掲載した職人賃金としての算定が主な賃金基準でした。
  店主と折半する(実質は 1/3の賃金)時代では、ほとんどの職人は、将来自分の店を持つことを夢見ていました。
   独立までを15〜20年と計画して、職人としての技能を学び、自らの能力を磨くことが「奉公の常」であって、一人前の
  「経営者」になるための条件でもありました。よって、低賃金であっても我慢してきたのです。
   独立するまでの障壁は、結婚にありました。男として所帯を持つことは、独立補助者として妻を娶ること。また、それ
  だけの所得を得るために、休日を返上して、出張業務や技能研磨ための講習会に参加したのです。
   賃金の収支内訳には、出張業務で得る小遣い程度の雑所得がありました。すべてのサロン、すべての技術者にこの雑所
  得があったわけでは、ありませんが、理美容業では、現金商売であるため、サロン業務を離れての別所得は、技術と引き
  換え所得されることがありました。
   休日となる日は、業界団体が企画する競技会や講習会に参加しました。これらは、勤務するサロンで行われる場合もあ
  って、主催者はサロンオーナーであっても、技能研磨のための講習料は、従業員負担を常としました。一般には、賃金か
  ら差し引く形で相殺されていました。
   独立前に結婚をすることは、2人で独立に向かって貯蓄する。確かなように思えますが、実際は独立を遅らせることに
  なりました。ひとりで生活する場合は、サロンが用意する寮に居住し、食生活もサロンが準備していたので支出は、賃金
  に比例して遣いましたが、2人で別所帯を持つと支出は倍以上になりました。
   また、時が過ぎれば、子供を儲けて収入の割には出て行く方が多く、一家の生計を支える支出になりました。このこと
  は、従業員の長期拘束となって、全ての従業者を独立によって失う算式も成り立ちませんでした。
   このことは、今の理容業に見られることですが、独立の行き場を無くした高齢者従業員雇用の実態となります。男性技
  術者の賃金は、サロンの生産性に比例せず、世間一般の賃金に併せる経営になりました。これら背景が今の発展を阻害す
  る一因でもありました。
   美容室で勤務する技術者が女性であった時代では、女性技術者がいつごろまで勤務できるかが、次の技術者補充課題で
  した。つまり、女性技術者が、いつ結婚して、子供を産むかを退職の区切りと考えました。
   女性技術者の場合、男性技術者と違い、独立して店舗を構えることが少なかったのです。そのため、賃金も業界相場、
  生産性基準原理を基にして、支給されることが多く、本誌算定の最低賃金や生産性賃金が注目されました。過去において
  もその問い合わせを情報として販売することができました。
   理美容業は、限られた時間労働を行います。カット料金は、まさに技術者の技能そのもので、数だけ技術して、技術者
  の処理能力の限界にチャレンジするだけです。労働時間9時間(休憩2時間を除く)で、カット施術30分(セット時間含む)を
  フルタイム勤務して、18名×単価\4,000=売上\72,000。これが限界点です。
   技術係数は、18.0 になりますが、実働25日休まず勤務して、450人をカットする。昭和初期の頃の理容室では、表に並
  ぶ顧客を次々技術して、この数字を達成していました。「1ヶ月500人切り」があり得た時代だったのです。
   今なら、売上\72,000×30日÷3(算式は前項参照)=\720,000 が職人の給与になります。現実は、本誌レーダーチャー
  ト繁盛店技術係数で示すとおり、6〜7名が1日1人当たり技術者の処理客数です。
   上記算式で計算すると、7名×\4,000×25÷3=\233,333 これが技術者給与となります。数だけ仕事して売上を店主と
  折半する考え方は、今も残っていますが、繁盛するサロンは、特殊技術といわれる高単価商品(技術)で「質」を重視した
  経営を行います。
   特殊技術は、機器や薬剤を使います。これが人件費以外の原価となって、売上や賃金に影響を与えます。賞与・昇給・
  退職金がない理美容業。若い世代の憧れを業界成長に結びつけることが出来なかったところは、世間一般の賃金水準に見
  合う努力をします。経営者の取り分を圧縮することで切り抜けてきました。このつづきは、次号以降に掲載します。

 3.

   平成14年3月施行の「保健師助産師看護師法」により、看護婦(士)の名称が「看護師」に変更になりました。


 4.


 5.




 以上のマグログは、メールマガジン週刊「スタイリスト情報」に連載したものです。このマガジンは、理美
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